「山の上で食べる、最高の一皿」を届けたい。
3年で250座を登った山屋が1年以上かけて作った山屋による山屋のためのカレー

3年で250座以上の山に登ってきたSOPHOLA株式会社 代表の飯野正紀さんが、松本大学と株式会社CEFCOの協力を得ながら、1年以上をかけて開発した「山屋による山屋のためのカレー」。

きっかけは、山小屋で食べた一食と、テント泊の登山者たちが置かれている環境の差でした。

山で食べるご飯の大切さに気づいた瞬間。
最初の構想だったわさびカレーが、レトルト化でうまくいかなかったこと。

それでも信州産の素材にこだわり続けた理由。
そして、売上の一部を登山マナー10ヶ条チラシ配布やトレイル整備などに還元する想い。

山屋による山屋のためのカレーの原点を、開発者であり登山者でもある飯野さんに聞きました。
ホームマウンテンの長峰山でJonen Peakworksや山屋による山屋のためのカレーについて語る飯野さん。
ホームマウンテンの長峰山でJonen Peakworksや山屋による山屋のためのカレーについて語る飯野さん。

息子との登山が、山との関わりを変えた

——最初に、登山を始めたきっかけを教えてください。

飯野さん:

3年ぐらい前に、息子のこども園で里山(人の暮らしの近くにあり、生活と関わりながら守られてきた山や森林)の親子登山イベントがあったんです。

それまで山登りには全く興味がなかったんですけど、往復2時間ぐらいの小さい山に登ったら、翌日ふくらはぎが筋肉痛になって。

これはまずいね、となって、息子と一緒に里山に登るようになりました。
長峰山山頂に立つ息子
最初の登山。2023年5月18日の長峰山登山(こども園の里山親子登山)。写真は山頂に立った息子さん。

——これまで登られた中で、特に印象に残っている山や出来事はありますか。

飯野さん:

一番印象に残っているのは、最初に登った長峰山です。山が好きな人は、地元にあって定期的に登る山を「ホームマウンテン」と呼ぶんですけど、僕らにとっては長峰山がそういう存在です。

——長峰山が、今も印象に残っているのはなぜでしょうか。

飯野さん:

最初はすごく疲れて、つらそうな表情をしていた息子が、だんだん余裕を持って登れるようになっていく。僕自身も余裕が出て、自然の音や空気に注意を向けられるようになりました。

長峰山は、自分と息子の成長を感じさせてくれる物差しのような山です。

——飯野さんにとって、山に登ることにはどんな意味がありますか。

飯野さん:

大きく3つあります。

一つは、気分転換です。沢の近くを歩いたり、樹林帯で葉が風に揺れる音を聞いたりすると、日頃のストレスや悩みが小さく見えます。

二つ目は、成長を感じられること。何か月か前には疲れ切っていた山を、いくつもの山に登るうちに余裕を持って登れるようになる。子どもも、周りの登山者に褒めてもらうことで自己肯定感が上がっていきます。

三つ目は、自分を見つめ直し、思考を整理できることです。

暗い時間帯に山を歩いていると、過去に孤独を感じていたときのことや、そのとき自分を明るく照らしてくれた人たちの存在を思い出すことがあります。

山って、山のことばかり考える場所じゃないんです。
昔のことや子どものこと、いろいろなことが自動的に整理される感じがあります。

電波が入らないことも多いので、瞑想に近いのかもしれません。
紅葉の山道を親子で歩く
春夏秋冬、いろんな山に親子で行きました。
岩場を登る息子
どんどん行ける山が増えていって子供の成長を実感できる登山の時間は何より親として嬉しかったです。

山小屋で食べた一食が、すべてを変えた

——山での食事について、考え方が変わった経験はありますか。

飯野さん:

もともと日帰り登山が多くて、山の上ではカップラーメンやコンビニのパン、おにぎりを食べていました。

登っている途中に行動食で消費したカロリーを補って、山頂ではお腹を満たすために適当なものを食べる。下山したらレストランや道の駅でご飯を食べればいいと思っていたので、山の中での食事をあまり大事にしていなかったんです。

考え方が変わったのは、2年ぐらい前に八ヶ岳の硫黄岳山荘へ初めて泊まったときでした。

山の上なのに、きちんとした食事が出てきたんです。疲れ切った後に、下界でなければ食べられないような栄養バランスのある食事を、みんなでその日の登山を振り返りながら食べる。
それがめちゃくちゃおいしくて。

山の上で食べるご飯に対する考え方が、180度変わりました。

——その経験が、山屋による山屋のためのカレーの構想につながったのでしょうか。

飯野さん:

その後、いろいろな山小屋に泊まるようになって、山小屋とテント泊の圧倒的な環境の違いを意識するようになりました。

稜線上のテント場では、雨風を遮るものがありません。食事もカップラーメンや、持参した簡易的なレトルト食品が中心になります。

山小屋で食べるようなバランスのいい食事を、テント泊や日帰り登山でも食べられたらいいなと思ったんです。バーナーで湯煎するだけで、下界でなければ食べられないような食事が楽しめたらいいなと。
大キレットの稜線
雨・強風の翌朝の大キレット。稜線上には、雨風を遮るものがありません。雨風を遮る屋根、美味しい食事で気力・体力の回復を図れる山小屋の存在の有り難みを改めて感じました。
ヒュッテ大槍の夕食
山の中の食事。北穂高岳〜南岳の間の大キレットに2泊3日で行った時に宿泊したヒュッテ大槍の夕飯の写真。栄養価の高そうな食事で、小屋泊しない登山者(テント泊や日帰り登山者)も山屋による山屋のためのカレーで山屋にぴったりの贅沢なカレーの一皿を食べてもらいたいと強く思いました。

最初の構想は、15年前から作っていた「わさびカレー」

——なぜ、カレーだったのでしょうか。

飯野さん:

僕は15年ぐらい前から、個人的にわさびカレーを作っていました。
食べた後にカレーの味が口に残ったり、胃もたれしたりするのが嫌で、すっきりした後味のカレーを作ろうと思ったのがきっかけです。

わさびや緑茶を入れたら、たくさん食べても胃もたれしにくい、さっぱりしたカレーになって。
周りからも好評でした。

安曇野といえば、わさびです。
そのわさびカレーを、登山者の疲れた体に必要なエネルギーや栄養バランスを考えたレトルトカレーにできたら、喜ばれるんじゃないかと思いました。

山の上で安曇野らしいカレーを食べられて、疲労回復にもつながる。
こんな商品はないと思ったんです。

初日から全否定。わさびカレーは「焦げた味」になった

——開発は、順調に進みましたか。

飯野さん:

最初は、もうみんなに全否定されました。

「わさびカレーなんて、加熱したら絶対に風味が飛ぶ」「緑茶を入れる意味がわからない」と、初日から袋叩きにあって。どうしてみんな批判してくるんだろうと、かなりへこみました。

でも、プロが言っているから、そうなのかもしれないと思って。
最初の試作品を食べてみたら、全然おいしくなかったんです。

レトルト化の高熱処理によって、わさびが焦げたような苦味になり、風味は完全に消えていました。

もともとのコンセプトを完全に否定された感じになって、もうやめようかなと思いました。

——それでも、開発を続けた理由は何ですか。

飯野さん:

登山専門店やアウトドアショップを見ても、本当に登山者に向けて作られたカレーがなかった気がしたんですよね。

素材にこだわっていて、どこで作られたものかが分かる。
山の上でごちそうとして安心して食べられて、疲労回復や栄養バランスにも配慮され、地元のものも楽しめる。そういうカレーは、まだないと思いました。

そこで、コンセプトを大きく変えました。

松本大学側は、女性登山者も食べやすい、辛さを抑えたキーマカレー。
僕の方は、疲労回復を意識した、さっぱり食べられる少し辛めの和風カレーにトマトを合わせる方向で、レシピ開発を進めました。

何度も言われた「信州産、やめたらいいんじゃないですか」

——開発を通して、最後まで譲らなかったものは何ですか。

飯野さん:

信州産の食材を使うことです。

実は、何度も「信州産をやめたらいいんじゃないですか」と言われました。
とにかく高いし、大手のように一度に大量生産できるわけではないので、価格がどんどん上がっていったんです。

「ブラジル産でも十分おいしいし、メジャーなレトルトカレーの多くはブラジル産ですよ」と提案されましたが、それも全部断りました。

Jonen Peakworksというブランドとして、
長野県や安曇野をもっと知ってもらい、楽しんでもらいたかった。
どれだけ価格が上がっても、信州産へのこだわりは譲れませんでした。

——素材の中でも、特にこだわったものはありますか。

飯野さん:

山屋による山屋のためのカレーでは、肉にすごくこだわりました。

山小屋のカレーやレトルトのビーフカレーを食べても、肉が少なかったり、小さかったり、硬かったりして、肉の存在感を感じにくいことがあります。

せっかく地元の肉を使うなら、「この肉はおいしいな」「贅沢なカレーを食べているな」と思ってほしかったんです。

最初の試作品では、レトルト化の高熱処理で鶏肉がパサついていました。これならブラジル産でいいのでは、と思うぐらい肉のおいしさを感じられなかった。

そこでCEFCOさんに下処理や下味を何度も変えてもらい、2〜3か月ほどかけて、肉の味と弾力を感じられる状態に仕上げました。

学生のレシピを尊重して、二つの個性をつくる

——山屋による山屋のためのキーマカレーの開発では、何を大切にしましたか。

飯野さん:

松本大学の学生さんたちの意見を、とにかく尊重することです。

学生さんたちは、女性登山者も安心して、喜んで食べられるカレーを一生懸命考えてくれていました。僕は山屋の視点から少しアドバイスする程度にして、学生さんたちが出したレシピをブラッシュアップしていくことを意識しました。

山屋による山屋のためのキーマカレーでは、野菜やきのこを食べたいという女性目線を大切にして、ぶなしめじをいれています。

似たような商品を作らないと最初から決めていたので、二つのコンセプトがまったく違うカレーになったのは良かったです。

完成した瞬間、涙が出るぐらい感動した

——完成まで、どのくらい試作を重ねましたか。

飯野さん:

レトルト化した試作品だけでも10回以上です。
鍋で作る小さな試作や、松本大学で圧力鍋を使ってレトルト化を再現した試作まで含めると、20回ぐらいになると思います。

スパイスが焦げたように感じられない分量を探したり、味噌の量を減らしたり、肉の下処理を変えたり。何度も食べて、少しずつバランスを見つけていきました。

——最後まで難しかったのは、どの部分でしたか。

飯野さん:

辛さです。参加者全員で、好きな辛さが違いました。

松本大学の学生さんたちは、ほとんどが辛いものを苦手としていた。CEFCOさんは甘口と中辛の間ぐらい。僕は中辛から大辛ぐらいが好きでした。

辛さがなければ物足りない。でも、辛すぎると山の上で胃に刺激が強い。
どの意見も、その人の立場に立てば正しかったんです。

最終的に、山屋による山屋のためのキーマカレーは辛さを控えめにして油分も調整する。
山屋による山屋のためのカレーは、辛いカレーを食べたい人に向けて、しっかり辛味を出す。
二つの方向性を完全に分けました。

——完成した二つのカレーを食べたとき、どう感じましたか。

飯野さん:

山屋による山屋のためのキーマカレーは、ぶなしめじや野菜がたっぷり入っている。
レトルトで、こういうキーマカレーは市場にないなという驚きがありました。

山屋による山屋のためのカレーは、本当においしくて、感動するレベルでした。
いろいろなレトルトカレーを食べましたが、レトルトカレーではないと思うぐらいおいしかったです。

僕は食品を作った経験がなくて、ただの山屋で、料理好きな中年男性です。
本当に完成するのか、ずっと不安でした。
1年以上が経って、「このプロジェクトはいつ終わるんだろう」と思いながら、何度も試食を繰り返していました。

ようやくできた。感動で涙が出るぐらいでした。

自分が山へ行くなら、まず持っていきたいと思えるものになりました。

わさびは手放した。でも、目指した味はここにある

——完成した山屋による山屋のためのカレーは、どんな味なのでしょうか。

飯野さん:

唐辛子がしっかり効いた、本格的な和風カレーです。和風出汁と信州味噌のコク、そこにトマトの酸味が合わさって、疲れた体でもパクパク食べられる味になっています。

当初こだわっていたわさびは、レトルト化ではどうしても風味を残せなくて、手放しました。でも、僕が15年前からわさびカレーで目指していたのは、「食べた後にすっきりして、胃もたれしない」という体験です。それは、和風出汁と味噌とトマトの組み合わせで実現できたと思っています。

手段は変わりましたが、目指した味には辿り着けました。

——具材にも特徴がありそうですね。

飯野さん:

「信州福味鶏」がゴロゴロ入っていて、目でも贅沢感を感じてもらえると思います。しかも、柔らかくてジューシーです。あれだけ苦労した肉の下処理の成果ですね。

信州産豚肉と国産大豆も入っているので、3種類の素材からたんぱく質をたっぷり摂れます。豚肉の旨みを感じつつ、大豆はすりつぶされてないので、大豆の食感を楽しめ、1袋でたんぱく質23.5gも摂れます。疲れた体の回復を考えると、登山者にとって大事な数字ではないでしょうか。

それと、生姜とニンニクのおかげか、食べているうちに体がポカポカしてくるんです。テント泊で外が冷えてきても、内側から温めてくれると思います。

——山屋による山屋のためのキーマカレーは、どんな味わいですか。

飯野さん:

キーマは少し趣向が違って、辛さを抑えめにしています。ココナッツミルクパウダーが入っていて、まろやかなテイストです。辛いカレーが苦手な方や、お子さんにも満足してもらえる設計になっています。

細かくした「信州福味鶏」と信州産豚肉に加えて、パプリカ、人参、ぶなしめじがたくさん入っているので、お肉も野菜も両方楽しめます。こちらも生姜とニンニクが効いてきて、食べている最中に内側からポカポカしてくるんですよね。
山屋による山屋のためのカレーの盛り付けイメージ
肉や豆などの具材が形を残し、一般的なレトルトカレーの均一なルーとは異なる、具材感のある仕上がり。 ※商品に含まれるのは山屋による山屋のためのカレーのみです。写真のご飯・野菜・トッピング・付け合わせは含まれません。
山屋による山屋のためのキーマカレーの盛り付けイメージ
山屋による山屋のためのキーマカレーの盛り付けイメージ。ひき肉や野菜、きのこなど、素材の食感を楽しめる具材感のある仕上がりです。 ※商品に含まれるのは山屋による山屋のためのキーマカレーのみです。写真のご飯・野菜・トッピング・付け合わせは含まれません。

「最高の一皿」は、まだ食べていない

——飯野さんご自身は、もう山の上で山屋による山屋のためのカレーを食べましたか。

飯野さん:

実は、まだなんです。

下界では何十回も食べてきましたが、山の上ではまだ一度も食べていません。(取材当時)

一番のスパイスは、山を登って疲れたときに食べることだと、ずっと言ってきました。だからこそ、最初の一皿は、ちゃんと自分の足で登った山の上で食べたい。

開発者の僕も、この「最高の一皿」を、みなさんと同じように楽しみにしています。

売上の1%をトレイル整備などに。「当たり前」を支える人への感謝

——売上の一部をトレイル整備などに充てる取り組みは、どのようなきっかけから生まれたのでしょうか。

飯野さん:

登山を始めてしばらくしてから、登山アプリ「ヤマレコ」のGive My Climb運動に参加しているんです。

登った山の標高を金額に換算して(2,017mの山なら2,017円)自分で貯金し、ある程度まとまったら、自分で選んだ支援団体や自治体に募金する取り組みです。金額の決め方は参加者の自由なので、僕は標高の10%と決めて、登山道を整備する団体に寄付しています。

登山道の整備は、本当に大変です。
重い丸太を下から担いで設置したり、雨で削れた道に土を入れたり、笹を切ったりする。

地元の方がボランティアで担っていることも多く、高齢化も進んでいます。
整備された山道を歩く子ども
子どもも歩くことが出来る整備された山道。きれいに整備されていることのありがたさを感じます。
子どもと山へ登ると、整備された登山道の方が歩きやすく、安全だと実感します。

登山者に向けた商品を作るなら、個人としてだけでなく、会社としても地元の山に貢献したい。そう考えて、売上の1%をトレイル整備に還元することにしました。

登山マナー10カ条に込めた、自然と人への感謝

——Jonen Peakworksでは、登山者向けに「登山マナー10カ条」を4言語で作成し、無料で配布しています。この取り組みを始めた背景を教えてください。

飯野さん:

2024年10月に表銀座を縦走したとき、登山マナーを知らない方が多いと感じました。

落石したときに周りへ知らせること、登っている人を優先して道を譲ること。ほかにも、ゴミや騒音の問題があります。

外国人だけではありません。十分な装備をせず、スニーカーで登ってけがをする日本人もいます。本人だけでなく、救助隊や周りの登山者にも影響が出ます。

もっと多くの人の目に触れる形で、マナーを伝えた方がいいと思いました。銭湯に「入浴マナー10カ条」のような掲示があるのを見て、登山にも同じようなものがあったらいいなと考えたのがきっかけです。

——10カ条を通して、最も伝えたいことは何ですか。

飯野さん:

自然への感謝と、人への感謝です。

今見えているきれいな山を守るために、ものすごい数の人たちが努力しています。税金だけではなく、地元自治体や山小屋の方、ボランティアの方々が維持してくれている。

山を気軽に楽しみ、きれいな景色を見られるのは、見えないところに多くの人の努力や配慮があるからだと知ってほしいです。

「仕方なく選ぶカレー」にはしたくない

——山屋による山屋のためのカレーは、登山者や地域にとって、どのような存在になってほしいですか。

飯野さん:

山の環境や山に関わる人へ貢献するから、仕方なく選んでもらうカレーにはなってほしくないんです。

山の上で食べられる、贅沢で栄養バランスのいい、最高の一皿として楽しんでほしい。

地元の食材を使っているので、長野県や安曇野も感じてもらいたいです。
そして、おいしいものを食べることが、自然や人への貢献につながる。おいしいと思ったら、どんどん食べてほしいですね。

まずは地元の北アルプスから始めますが、安曇野や北アルプスだけに貢献したいわけではありません。

「この山域にも寄付してほしい」「ここでもマナー10カ条を配ってほしい」という声があれば、日本全国の山を支援していきたいです。

「普通の登山者」だからこそ、意味がある

——飯野さんは著名な登山家でも活動家でもない、いわば普通の登山者です。その立場でこの活動をすることに、意味はあると思いますか。

飯野さん:

むしろ、そこに一番意味があると思っています。

僕は3年前に息子と里山で筋肉痛になっていた、ただの山好きの中年親父です。そんな僕でも、標高分の貯金や寄付、チラシの配布はできた。特別な実績も資格も要りませんでした。

一人の有名な登山家ができることは、確かにすごいです。でも、僕みたいな普通の登山者が数百万人いるんです。その一人ひとりが、登った標高分の一部でも、カレー一皿分でもいい、自分のできる分だけ山に還したら、その集積はどんな英雄一人の力よりも遥かに大きいはずなんです。

「あの人は特別だから」で終わらせずに、「この人にできるなら俺も、私も」と思ってもらえたら。僕がこの活動をする意味は、そこにあると思っています。

安曇野から、登山者が喜ぶものを届けるブランドへ

——次に形にしたい商品はありますか。

飯野さん:

現在、登山中に食べる行動食や飲料の開発を進めています。

地元の素材にこだわり、市場にまだなく、登山者に喜んでもらえるものを作りたい。
売上の1%を寄付し、マナーを伝える活動にもつなげるという考えは変わりません。

——Jonen Peakworksを、どのようなブランドに育てていきたいですか。

飯野さん:

安曇野は、全国の登山者が憧れる北アルプス南部の玄関口です。そこから安曇野や信州産の素材を使い、市場にない、登山者が喜ぶものを発信していきたいです。

それだけではなく、山の環境や山に関わる人、山が好きな人たちの将来を応援している企業だと思ってもらえるブランドにしたい。

Jonen Peakworksを応援することが、未来の山々を守ることへの参加につながる。そう感じてもらえるブランドに育てたいです。

——その未来を実現するために、どのような方々と取り組んでいきたいですか。

飯野さん:

北アルプスの環境保全やマナーの啓発に課題を感じている自治体、山を地域のシンボルとして大切にしている地元企業、活動に共感してくださる方々と連携していきたいです。

チラシを置ける場所や協力してくれる人をつないでくださる方も出てきています。始めたばかりの活動だからこそ、共感してくれる方々と一緒に広げていきたいですね。

——最後に、山屋による山屋のためのカレーを手に取る方へメッセージをお願いします。

飯野さん:

安いレトルトカレーではないので、最初は半信半疑でもいいです。

山を登って疲れたときに、アルファ米をたくさん作って、カレーをたっぷりかけて食べてほしい。難しいことは考えずに、いっぱいおいしく食べてほしいです。

トッピングで味を変えたり、自分の好みに合わせてカスタマイズしたりするのも楽しんでほしいですね。

一番のスパイスは、山を登って疲れたときに食べることです。その一皿を、僕もみなさんと同じように楽しみにしています。

おまけ|聞き手を交代して

インタビューの最後は飯野さんが聞き手となり、山屋による山屋のためのカレーの開発に携わってきた星野へ質問しました。

——このプロジェクトに携わる前と今で、山屋による山屋のためのカレーへの印象は変わりましたか。

星野:

最初から、山の整備に貢献できて、おいしく食べることが自然な支援につながる、すごくいい取り組みだと感じていました。

携わる中で強く感じたのは、利益よりも、山や地域への熱い思いが詰まったカレーだということです。もともと環境問題には関心があったので、「こういう取り組みは必要だよね」という感覚で、自分事として入っていけたと思います。

——お子さんと一緒に山へ行き、山屋による山屋のためのカレーを食べてみたいですか。

星野:

登山は荷物や体力を考えると、まだ少しハードルがあります。でも、ハイキングなら親子で挑戦してみたいです。食べることが大好きな子どもなので、きっと喜ぶと思います。

飯野さん:

山屋による山屋のためのキーマカレーは辛さが控えめで、大人は辛い山屋による山屋のためのカレーを楽しめる。親子で山へ行く方々にも、二つを一緒に楽しんでもらいたいですね。