試作のおいしさは、そのままレトルトにはならない。
信州産の素材感を一袋に残す。CEFCOがつくった
2つのカレー

山屋による山屋のためのカレーと山屋による山屋のためのキーマカレーを製造するのは、長野県安曇野市の食品メーカー、株式会社CEFCOさんです。

業務用ソースやレトルト食品など、さまざまな食品の開発・製造を手がけてきた同社。家庭でつくったレシピを、そのまま大量生産するのではなく、工場で安定して製造でき、なおかつ商品としておいしい状態へ仕上げる技術を持っています。

山屋による山屋のためのカレーの開発では、代表の伊藤さんと清澤さんが初期段階から参加。
松本大学、SOPHOLA飯野とともに、栄養設計、原材料、味、レトルト製造の条件をすり合わせてきました。

最初に相談を持ちかけてから、完成まで一年以上。

信州産の鶏肉と豚肉、きのこや野菜の素材感を、高温・高圧で加熱した後にも残すにはどうすればよいのか。

山屋による山屋のためのカレーが完成するまでの試行錯誤を、CEFCO代表の伊藤さんと、製造に携わった清澤さんに聞きました。
CEFCOがOEMで過去に製造した商品の一例
OEMで過去に製造した商品の一例。小ロットでも、依頼主のこだわりに合わせて製造されています。

山での食事は、楽しみそのものになる

——山屋による山屋のためのカレーの企画とレシピを初めて見たとき、どのように感じましたか。

伊藤さん:

山で食べる食事って、結構大事ですよね。唯一の楽しみと言ってもいいかもしれない。

そこで、しっかり栄養価も取れて、おいしい食事を手軽に食べられる。そういういいものがつくれるのであれば、ご協力できるのはありがたいなと感じました。

——普段手がけている商品との違いはありましたか。

伊藤さん:

目的がはっきりしていましたね。

地元の主要な食材を入れながら、栄養価があり、しかも楽しみとしておいしい。それを山で体現する商品でした。

私たちが普段つくる外食向けの業務用食材やソースでは、価格を抑えるための工夫を求められることもあります。

今回は、そうした話が最初からありませんでした。きちんとした食材を使って、おいしいものをつくる。その方向が明確でした。

信州産の鶏と豚を、両方使う珍しさ

——素材やレシピで、特に印象に残った点はありますか。

伊藤さん:

やはり、地元の鶏(信州福見鶏)と豚が両方入っているところですね。

大体はどちらかなんです。信州産の鶏を使ったら、普通は信州産の豚までは使わない。

——なぜ、両方使う商品は少ないのでしょうか。

伊藤さん:

値段が高くなるからです。

一つ入っているだけでも十分に売りになります。「信州で育った鶏を使っています」というだけで、市場では付加価値がつきますから。

だから、鶏と豚の両方を使っている商品は、あまりないと思います。

山屋による山屋のためのカレーでは、信州産の鶏肉と豚肉を、単なる産地の訴求ではなく、味と食べ応えをつくる素材として組み合わせています。

大豆を加えていることも、CEFCOがこれまで製造してきた商品では珍しい設計でした。

肉だけではない、山屋による山屋のためのキーマカレー

——山屋による山屋のためのキーマカレーについては、どのように感じましたか。

伊藤さん:

キーマカレーは、本来もっと肉肉しいんです。キーマというだけあって。

今回のものは、ひき肉だけでなく、きのこや刻んだ野菜も一緒に入っています。大学がエネルギーや栄養価も考えたうえでつくられているので、かなり珍しいと思いました。

ラタトゥイユとキーマカレーを合わせたようなイメージでしょうか。

——具材の食べ応えもあります。

伊藤さん:

ありますね。

そのままパンにつけてもおいしいでしょうし、ピザの上にのせてチーズをかけて焼いても、絶対においしいと思います。

肉のうま味だけでなく、きのこや野菜の食感も感じられる。
山屋による山屋のためのキーマカレーは、一般的なキーマカレーとは異なる具材感を持つ商品になりました。

おいしいことと、栄養価が高いことは別

山屋による山屋のためのカレーの栄養設計には、松本大学の石原三妃先生と学生のみなさん(廣田直子先生監修)が関わっています。

しかし、栄養価を高くすれば、そのまま山で食べたいカレーになるわけではありません。

——最初に難しいと感じたのは、どのような点でしたか。

伊藤さん:

難しいのは、栄養的な観点でした。

おいしいことと、栄養価が高いことは、また別なんです。

最初は「一日分のカロリーを一食で補う」という発想もありました。

でも、山で4,000キロカロリー、5,000キロカロリーを消費した分を一食で取るのは、かなり無理があります。

一食で1,000キロカロリーとなると、ほとんどラードを飲むようなものですよね。それでは脂肪だけを取ることになり、そこに「おいしい」は加わりません。

そこで松本大学、SOPHOLA、CEFCOの三者で、何度も話し合いを重ねました。

——管理栄養士の方と一緒に商品をつくることは、これまでもあったのでしょうか。

伊藤さん:

あります。ただ、これまでは一緒にレシピをつくり上げるというより、管理栄養士が監修したレシピが、完成した状態で工場に届くことが多かったですね。

——今回は、そこが違った。

伊藤さん:

今回は、開発の途中から一緒に考えました。

カロリーをどう上げるのか。上げながら、どうおいしくするのか。塩分を摂り過ぎないようにするにはどうするのか。

そうしたことを途中途中で話し合いました。レシピの段階から大学が入るのは、私たちにとっても珍しかったです。

——一緒に開発を進めてきて、今はどのように感じていますか。

伊藤さん:

飯野さんの「山で食べたらおいしいものをつくりたい」「自分が食べたいものをつくりたい」という思いを、少しでも形にできていたらうれしいですね。

そこに松本大学が入り、栄養面やレシピを支えてくれました。

完成までのプロセスを知ったうえで、このカレーを味わってもらえたら、本当は一番うれしいです。

レトルトという、もう一つの壁

試作でおいしいカレーができても、それだけでは商品になりません。
レトルト食品は、密閉した袋を高温・高圧で加熱することで、常温で長期間保存できるようにします。

安全性を確保するために必要な工程ですが、食材には強い熱が加わります。

伊藤さん:

家庭で調理する場合と比べると、かなり強い加熱が入ります。

最初のレシピでつくったものよりも、「煮込みすぎた」ような状態になりやすいんです。

熱によって香りが失われる食材もあれば、食感が崩れる食材もあります。

そうした食材は話し合ったうえで外したり、反対に量を増やして、加熱後にも香りが残るようにしたりしました。

試作時の味をそのまま袋に入れるのではなく、加熱後に購入者が食べる状態から逆算して調整する。

それが、レトルト食品をつくる難しさです。

肉がパサつき、香りが焦げて感じられた

開発初期の試作品では、肉にパサつきがあり、香りにも焦げたような印象が残っていました。
試作を重ねるうちに、肉は柔らかくなり、噛んだときに肉の味を感じられるようになりました。

袋を開けた瞬間の香りも、次第にカレーらしいものへと変わっていきました。

——どのように調整したのでしょうか。

伊藤さん:

肉については、前処理をしっかり行っています。

香りは微妙なバランスなので、嫌な印象が出るものは量を減らし、足りないものは増やしていく。

そうやって微調整をかけながら合わせていきます。

——すべての商品に共通する正解があるわけではない。

伊藤さん:

そうなんです。

レシピごとに素材が違いますから、毎回それをやらないといけません。

原材料の量や処理方法を少し変え、加熱し、実際に食べて確かめる。

パッケージからは見えない小さな調整の積み重ねが、現在の味を支えています。

妥協しなかったのは、素材感と味

——品質面で、妥協しなかったことは何ですか。

伊藤さん:

やはり、素材感と味ですね。そこはこだわってつくっています。

地元の食材をたくさん使って仕上げていますので、山で食べる商品というだけでなく、長野県を伝える食品でもあると思っています。

信州産の食材を使っていても、高温で加熱した結果、肉や野菜の存在が分からなくなってしまえば、その魅力は十分に伝わりません。

肉の食感や風味を残し、きのこや野菜を具材として感じられる状態にする。

清澤さん:

CEFCOならではのカレーになったと感じています。

CEFCOらしく「しっかり、丁寧に、真面目に」つくりました。

素材の良さを引き出し、肉の食感や風味を残したうえで、レトルトカレーとしてもおいしくできたと思います。

完成した日、最終試食会で握手をした

——完成した商品を初めて食べたとき、どのように感じましたか。

伊藤さん:

話し始めてから、もう一年以上たっていました。

ようやく、味と飯野さんの思いが一つの形になった。そこが一番大きかったですね。

——あのとき、握手をしましたね。

伊藤さん:

しましたね。

飯野さんが持っていた「山で食べたいカレー」を創りたいという熱い思い。

松本大学による栄養面からの検討。

CEFCOが持つレトルト製造の経験。

それぞれが完成したものを受け渡すのではなく、開発の途中から意見を出し合ったことで、山屋による山屋のためのカレーは完成しました。

山で食べる一食を、山の未来にもつなげる

——最後に、山屋による山屋のためのカレーを食べる方へ、味わってほしい部分を聞きました。

伊藤さん:

信州産の食材がたっぷり入っているところを、ぜひ見て、味わっていただきたいです。

地元に来て、地元のものを食べる。それは、遠くへ来たときの醍醐味だと思います。

——そして伊藤さんは、味だけでなく、山で食べる際のマナーについても話しました。

伊藤さん:

山のマナーをきちんと守って食べてもらいたいですね。

自分が落としたものでなくても、ゴミを見つけたら拾う。わざとではなく、ポケットから落ちてしまうこともありますから。それは、気づいた誰かが拾えばいいと思います。

登山道の整備には終わりがありません。

鎖場も木道も、設置すれば永遠に使えるわけではなく、修繕や架け替えが必要です。

山屋による山屋のためのカレーの売上の一部は、北アルプストレイルプログラムを通じて、登山道の整備などに役立てられます。

信州産の食材を味わう一食が、山を守るための小さな力にもなる。

それも、山屋による山屋のためのカレーが目指している商品づくりの一つです。
CEFCOの清澤さん(左)と代表の伊藤さん(右)
インタビューに協力してくれた、CEFCOの清澤さん(左)と代表の伊藤さん(右)。 1年以上をかけたプロジェクトを共に歩んだ二人だけあって、 当日は楽しそうな雰囲気でインタビューが進みました。
あづみ野産業団地内にあるCEFCOの本社
あづみ野産業団地内にあるCEFCOの本社。